Tuesday, February 9, 2010

給水コップのポイ捨てせず 人や自然に振れ合って走る

朝日新聞 1995年7月14日夕刊12面「エコマラソン提案」

給水コップのポイ捨てせず 人や自然に振れ合って走る

「自然を守り、異文化を学びながら、自分のペースで地球を走ろう」
海外のマラソン大会に参加する日本人に、こう呼びかけている市民ランナーがいる。東京都目黒区で映像ライセンス会社を経営する西一さん(四六) 。一九九〇年にホノルル・マラソンに参加して以来、海外で二十七種のマラソンを経験した西さんは、エコロジーとマラソンを組み合わせた「エコマラソン」という考え方を提案。今秋には、西さんが企画した「海外エコマラソンツアー」もスタートする。(宮田 喜好)

市民ランナーの西さん  クラブ設け、ツアー企画  <西さんの「エコマラソン」の記録>(略)

トラックの荷台を利用した給水所でひと休み、空いた容器はトラックが持ち帰る。現地に残るのは、ランナーの「足あと」だけ=米国カリフォルニア州のワイルド・ワイルド・ウエスト・マラソン

タヒチ・マラソンの給水所では、現地の女性ダンサーが歌と踊りで応援してくれた=南太平洋のモーレア島(いすれも西さん提供)

西さんは今年二月、米国ネバダ州とカリフォルニア州にまたがるデスバレーで行われたトレイルマラソン(未舗装道路を走るマラソン)に参加した。定員百五十人のうち、日本人は西さんだけ。同マラソンを走った初めての日本人だ。
峠と谷が繰り返す砂漠のなかの砂利道を、時には立ち止まって、記念写真を撮りながら走った。42.195㌔を5時間3分かけてゴールへ。「大自然を体で感じた。とても感動的でした」と振り返る。
西さんが本格的に走り始めたのは三十八歳のとき。きっかけは、同い年の妻をがんで亡くしたことだった。「人間の命のはかなさと、健康づくりの大切さを痛感しました」
三人の子供を育てながら、ジョギングやウエイトトレーニングに励み、四十一歳でホノルル・マラソンに初挑戦。しばらくは、日本からの参加者も多いサンフランシスコやインドネシア・バリ島などの市民マラソンに出場した。
二万人を超える日本人が参加した昨年のホノルル・マラソン。ランナーは、給水所の紙コップを無造作に捨てていく。西さんは、紙コップを拾い集める現地のボランティアの姿に心を打たれた。
昨年の秋ごろから西さんは既存のマラソンツアーに組み込まれていない海外の大会に一人で出場。現地の人たちと食事したり、会話したりした。見知らぬ景色や生活様式に触れるたび、言葉にできない感動を味わった。
「記録だけを競うのではない。楽しみ方は色々ある」「自然環境に対しても責任を持たなければならない」「現地の人と、おたがいに理解を深めるのも大切」
マラソンの“全体性”を訴え、至れり尽くせりのマラソンツアーでお金を使ってくるだけの市民ランナーに苦言を呈す。
いまも月三、四回は海外に出かけ、「二〇〇〇年までに百種類を走るのが目標」という西さん。
「多くの日本人に、この素晴らしさを知って欲しい」と昨年、海外マラソン・ジョイ・クラブ(電話03・5704・3550)を設立。月間の専門誌にも「西はじめの地球の走り方」という体験記を連載している。
今年9月には、米国で行われるトレイルマラソン「モニュメントバレー50マイラー」へのツアーを企画した。定員六十人の大会に、西さんら十五人の日本人が参加する予定だ。
携帯食の包装紙やバナナの皮など、ごみを途中で捨てたらすぐに失格になる厳しいルール。だが、西さんは「当たり前のこと」といい、それより、「同地区で暮らす先住民のナバホ族との交流が楽しみ」と目を輝かせる。その後も、ヒマラヤやデスバレーなどのツアーを予定している。
海外マラソン・ジョイ・クラブは、こうした趣旨に賛同する人たちの集まり。だが、会員名簿は作らないつもりだ。西さんは「お互いに情報を交換しながら、それぞれのスタイルでマラソンを楽しみ、“エコマラソン”という考え方を広げてゆきたい」と話している。

© 2010-2011 Ecomarathon International, a Non-Profit Organization www.ecomarathon.org  

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