Tuesday, February 9, 2010

海外大会、マナーは大丈夫?

日本経済新聞 1996年2月8日夕刊「エコマラソンのススメ」

海外大会、マナーは大丈夫?

日本人の海外マラソン熱は高まる一方だ。ところが日本人の行動特性か、どうしても一部の有名大会に集中。地元の人とふれあうこともなく、記録更新を目指し、コースにゴミを置き去りにして、嵐(あらし)のように通り過ぎてしまう。「もっと現地の人と交流したり、地球環境に意識が向く少人数参加の“エコマラソン”に注目してはどうか」と呼び掛けている人がいる。

「トレイル」など小大会 走る楽しさ発見   西さんが勧めるトレイルマラソンの一例(表略)
米モニュメントバレー50マイルレースでひと休みする西さん。首から下げているのはゴミ入れ(写真略)
ボランティアとの交流もマラソンの楽しみ(タイ・パタヤ国際マラソン)(写真略)

エコロジーとマラソンを組み合わせた、この“エコマラソン”を提案しているのは、東京で映像ライセンス会社を経営する西一さん(46)。西さんは昨年一年でなんと三十四回の海外マラソンに出場した経験を持つ市民ランナーだ。
紙コップ投げ捨て
西さんが走り始めたきっかけは、八年前に同い年の妻をがんで亡くしたことだった。「命のはかなさと、健康の大切さを痛感した」と四十一歳でホノルルマラソンに初挑戦した後、ロサンジェルスやバリ島など日本人の参加者が多いマラソン大会に出場を重ねた。
しかしそのうち、そうした大会での日本人の行動に疑問を抱くようになった。例えば毎年二万人以上の日本人が大挙して押しかけるホノルル・マラソン。給水所で受け取る紙コップを無造作に路上に捨てていく。十二時間を越えるレース中立ち続け、終わったあとに黙々と道路を掃除する地元のボランティアの苦労に思いをはせる人はほとんどいない。
地元と交流せず
「一秒を争う選手が紙コップを路上に捨てて行くのはしかたがないが、一般ランナーならゴミ箱に捨てるマナーは必要」と西さん。そしてレース後の行動についても「地元の人との交流はほとんどない」と残念がる。
西さんは若いころの海外生活体験を生かし、一昨年秋ごろから既存のマラソンツアーに組み込まれていない小さな大会に一人で次々と参加するようになった。そして自然にふれ、そこに住む人々との交流を重ねるうち、エコロジーに強い関心を抱くようになった。
特に未舗装道路を走るトレイルマラソンこそ自然との一体感を持てるスポーツと実感。だから、その豊かな自然環境にもっと責任を持たねばならないことを痛感したという。
無名の小さな大会の中に、エコロジーを意識させるレールは多い。毎年九月に行われるアリゾナ州とユタ州にまたがる雄大な自然をかけぬける「モニュメントバレー50マイル」では、紙コップやバナナの皮をコースに捨てると即失格という厳しいルールがある。
毎年二月に実施されるカリフォルニア州にあるデスバレーのトレイルマラソンもその一例。海面下八十六㍍、最高気温は五二度、最低湿度一%という“死の谷”を走るが、それだけ大自然を融合するような感覚が味わえたという。水や食べ物は原則、持って走る。レースそのものが環境破壊を最小限に抑えたミニマムインパクトの精神で貫かれているのだ。
同好クラブ旗揚げ
月に数回は海外マラソンに出かけ、「二〇〇〇年までに百種類の大会に参加する」のが西さんの目標。そして「この感動を自分だけで“独占”したくない」との気持も強く、このほどマラソンクラブ、エコマラソン・インターナショナル(℡03・5704・3550)をつくった。
「マラソンこそ自然からもっとも恩恵を受けているスポーツだと思う。それを体験し、常に自然環境を守ろうというライフスタイルが確立されればすばらしい」。西さんはこのクラブを母体に、“エコマラソンファン”を増やそうと、今春から小さいながらエコロジーを意識させる大会への参加を呼びかけている。

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